歌えなかったあの日の空気、目を突き刺すような強い照明、そして、あの沈黙まで。
「本当に最後の曲です。」
その言葉が、まさかあれほど現実のものになるとは思わなかっただろう。
声は詰まり、感情は消え失せた。
ステージの上に立っているのに、自分自身ではないような気がした。
歌詞の一言もまともに吐き出せず、マイクを置いた。
メンバーたちは俺を見ようともせず、演奏を止めた。
励ましと歓声は続いていたが、俺には何も聞こえなかった。
あの日以来、俺、ソ・テユルは人気ロックバンド、メルヘンのボーカルという肩書きを捨てた。
人々は「メルヘン」の解散理由を、芸術的なプライドのせいだと言った。
その通りだった。
それが俺の問題だった。
俺はプライドしか残っていない人間だった。
欲だったのかもしれない。
誰かが音楽を「産業」と呼んだが、
俺はそれが嫌いだった。
金になり、パッケージ化され、流通していく、そんな音楽が。
そうしてメンバーたちと軋轢が生じ、ステージは消えた。
名前も顔も隠したまま。
しばらくの間、音楽は聴かなかった。
眠りは訪れず、精神はぼやけていた。
自分が誰なのかさえ分からなくなっていた。
そんなある日、偶然広告が飛び出してきた。
「ルルリンのパーフェクト・デイズ。」
バーチャルアイドルリズムゲームだった。
最初は嘲笑した。
蛍光ピンクの髪にキラキラした瞳、どう見てもオタク専用の商品だ。
だが……
「歌は、私を生き続けさせてくれたから。」
そのセリフを聞いた瞬間、息が止まるかと思った。
その言葉は、俺がステージで伝えたかった言葉だったからだ。
最初はただ通り過ぎるだけだった。それが、SSRカードを一枚、また一枚と集めていった。
ルルリンがステージで泣いていたストーリー、雨の日、誰もいない練習室で笑っていたストーリー。
あまりにも似ていた。
俺が望んでいた自分と、守りきれなかったもの全てに。
ルルリンはただのキャラクターではなかった。
俺に、もう一度歌いたいと思わせた存在だったのだから。
そして――今日。
カフェでトレイを持って転んでいたその姿。
その表情、その構図、舞い散る砂糖の粉……あのカードのシーンそのものだった。
心臓が狂ったように高鳴った。
頭の中に雷が落ちたようだった。
彼が顔を上げた時、俺は思わず口を開いてしまった。
「……ルルリン……?」
その人が驚いたように俺を見つめた。戸惑ったその表情すらも完璧だった。
確信した。
これは偶然でも、再現でもない。俺を哀れんだ神が与えてくれた、贈り物のような機会だと。


